ジャミル・シェイクリー氏の本を日本語に翻訳されている野坂悦子氏によると、ヨーロッパでの試みとしてベルギー(オランダ語圏)、ポルトガル、イギリスの3ヶ国間で、一つの共同事業が成されているとのことです。20世紀の戦争と抑圧の記憶を風化させないために、それぞれの国や大学、上級職業学校で教職指導に当たる教員が中心となり、3つの言語圏における戦争児童文学をリストアップし、教育現場で使い易いものにまとめようということです。1997年に第一歩として3ヶ国語(オランダ語、ポルトガル語、英語)で『青少年書籍における戦争と平和』というカタログが発行されました。1999年にはオランダ語圏で『今晩、お話しにきて:物語と詩の中の戦争 Kom vanavond met verhalen. Oorlog In verhalen en gedichten』(版元 Bakermat)が出版されました。80編の物語の抜粋や詩が収録され、ホロコースト、広島の原爆、東ティモール問題、旧ユーゴスラビアのボスニア避難民についての作品などにまで及んでいます。ジャミル・シェイクリー氏の『いちじくの木がたおれ ぼくの村が消えた』も収録されています。彼の作品は2冊野坂悦子氏により翻訳されています。ここに少々紹介いたします。
『ぼくの小さな村 ぼくの大好きな人たち』(くもん出版)
"恋"ってなに?"死ぬ"って、どういうこと?
ヒワは、まだ5さいの男の子。
でも、もう学校に通っている。
好奇心いっぱいのヒワには、毎日が、小さな冒険と発見でいっぱい!
⇒この本を読む人は、クルドの村の生活にごく自然にはいりこんで、音や匂いを感じとることができるだろう。あたたかさと安心感、そして愛情につつまれた、元気のでてくる物語だ。
⇒五歳の少年の目を通して語られるこの物語は、笑いと新鮮なおどろきに満ちていて、どんな人でも楽しんで読むことができるだろう。<レーシデー誌>
ヒワという5歳の男の子が主人公のお話しです。平和な村に住み、ろばで学校に通う子あり。素朴な少年の日常生活が描き出されているほか、妹に不幸や、結婚式の様子も見てとれます。ジャミル・シェイクリー氏自身、5歳の時に村から町へ引越しをしており、また自分の妹を失ったという経験があります。この本と次の本で共に5歳の少年が主人公なのは、5歳という年齢は、すっごく子どもであるところから物事をきちんと考えられるようになる子どもにとって境目の年齢だからである、といっています。
『いちじくの木がたおれ ぼくの村が消えた』(梨の木舎)
アラームは、透き通った水が流れ、子ひつじたちがはしりまわる美しい村に住んでいました。ところがある春の日、カーキ色の軍服を来た男たちがやってきて村人たちに銃をむけ、アラームの家のおおきないちじくの木をたおし、家を壊して村を破壊してしまいました。
人々は、村を離れました。そしてアラームと母さんは町に行きます―。
⇒2500万ともいわれる人口を擁しながら大国のパワーゲームの犠牲になり、国をもてない民族の現在を少年の目を通して描く。
主人公は同じく5歳の少年アラム。頭で構成を練っていたジャミル・シェイクリー氏は、原題「白い雲」というこの作品を一日で書き上げたそうです。よく、「なぜ作家になったのですか?なぜ子どもたちのために書いているのですか?」との質問を受けるそうですが、ジャミル・シェイクリー氏はいつも答えに困ってしまい、「人は作家になるわけでもなく、もとから作家なのだ」と答えているそうです。自分が物語を書いているわけではなく、心の中でふくらんで動き出したアイデアを、首飾りになるようつないでいくことが自分の役目だと考えていらっしゃいます。
ジャミル・シェイクリー氏はこの2冊の本をオランダ語で書いています。自分の国の言葉で書くのではなく、他人の国の言葉で文章を書くということはやはり、協力者がいるものの、入れ歯で物を噛んでいるような気分になるそうです。