オランダに住む四歳から十二歳の子どもたちは、「基礎学校(basisschool)」に通っています。
基礎学校とは、日本の幼稚園と小学校を合わせたようなものです。
義務教育は原則として五歳から十六歳までなので、四歳の誕生日から五歳になるまでは、通学は任意です。
その期間は子どもの様子に合わせ、毎日午前中だけ、あるいは週一回だけ通学するといった形を取ることもあります。
学区制がないため、各地の公立学校、特別学校(カトリックやプロテスタント、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教等の
宗教に基づく学校やシュタイナー、モンテッソーリ等の教育理念に基づく学校)の中から、
保護者の教育方針に合った基礎学校を自由に選ぶことができます。
アムステルダムでボランティアをしたKさんの手記を引用して、まず、ある基礎学校の雰囲気をのぞいてみましょう。
「1998年8月末から3週間ほどオランダに行く機会があり、モンテッソーリ教育部門の幼児クラスで二週間お手伝いをした。
こちらの学校の特長は、小さいうちから自分のことは自分でできるようにということをモットーに、
できる子には上級生で習うことまでもどんどん教える、というところだろう。
幼児のうちから積極的にアルファベットや数字も教える。また、幼児ならば年長さんと年少さんが同じクラスにいるし、
また日本の小学校1・2・3年生、4・5・6年生に当たる生徒たちが、それぞれひとつのクラスにまとまって学んでいる。
年上の子供たちが年下を手伝い、時間割はない。先生がその人その人に合わせてカリキュラムを進めてくれるからだ。
時にはお絵描きをしたり、コンピュータをしたりと、皆が違う作業をしている方が当たり前になっている。
もちろん、全員で歌を歌ったり、ビデオを見たり、体育の授業があったりもする。
特に教育に熱心な親がモンテソーリスクールに子供たちを入れたいと思うようで、そのため、遠くから通っている子供たちも多く、
昼は家に帰って食事をするのが一般的であるが、ここでは基本的におべんとう持参になっている。」
いっぽう、同じ年に私が見学したハーグ郊外の基礎学校は、自由学校(Vrijschool)と呼ばれるタイプの学校でしたが、
年齢別のクラス編成があり、おおまかな時間割もありました。オランダ人には、宗教的、政治的に
「たて割り」社会を作って共存してきた歴史があるため、そうした感覚が教育にも活かされ、
学校それぞれの主体性が尊重されているからでしょう。法律によって、カリキュラムの目標は定められているものの、
教育方法や教材はかなりの部分、学校側の判断に任されています。学校訪問をするたび、気さくな雰囲気が嬉しくて、
先生方にすすめられるままコーヒーをお代わりしてしまいますが、学校教育のあり方自体、日本よりずっと風通しのよいもののようです。
第二次大戦後、オランダは、開発途上国を理解するための教育に力を注いできました。植民地政策への反省をバネにして、
先進国が第三世界と今後どう関わっていくべきか、というテーマに積極的に取り組んでいます。そんな中、異文化理解に役立つよう、
アムステルダムの熱帯博物館の中には、6歳〜12歳の子どもを対象にした「子ども博物館」が設けられました。
アンデス高地をテーマにした前回の展示には、600の学校グループが訪問したそうです。
現在は「宮殿の秘密」と題してガーナのアシャンティ宮殿を再現し、歌ったり踊ったり、衣装を身に着けたり、
物語を聞いたりしながら、宮殿をひとまわりするプログラムが用意されています。
「現地校のあるクラスでは、開発途上国の子どもたちの飢えを体験するために、昼食を抜く日を作ったそうよ。」
―オランダに住んでいた1980年代、そんな話を友人から聞いたこともありました。
「へえ、こっちは変わってるのねえ」というのが、そのときの正直な感想でした。もし日本の公立小学校の先生が、
とつぜんそんなことを提案したら、「ばかばかしい」「うちの子の気分が悪くなったら大変だ」と、
保護者の猛反対に合うかもしれません。全校規模、市町村単位で取り組めば可能かもしれませんが、
そうなると今度は「右向け右」式のばかばかしさが生じてくるでしょう……。
地球で今なにが起きているのか。確かにそこが国際教育の出発点です。それに加え、異文化理解も人権教育もすべて、
「どのように、人の痛みを自分の痛みとして感じるか」という点にかかってくることに、オランダ人は気がついているようです。
だからこそ、子どもたちに、自分の頭と体で考えるための良質のヒントを、様々な形で与えようとしているのでしょう。
この世界の明暗両方の面を伝えつつ、問題に対して具体的にどう行動すべきか、子どもたちに問いかけているのでしょう。
オランダの基礎学校にも、移民に対する教育問題、教員確保の苦労、学校運営の難しさ等、
さまざまな問題が累積しているそうです。それでも、オランダの大人や子どもたちと会って話をするたび、
懐の深さを感じて、どこかほっとするのです。
参考文献:
『オランダモデル』長坂寿久 日本経済新聞
『ホップ ステップ チューリップ』蘭蘭育児ネットワーク
'Onderwijs' LDC Publicaties